お祖父様の形見の自転車 春 出会いと別れ

お祖父様の形見の自転車  春  出会いと別れ

暖かな陽射しが煌めきはじめました。

日陰に薄っすらと雪が残る諏訪地方ですが、立ち昇る土の香りに、春の訪れを実感します。

新年度は、大人になっても胸が高鳴ります。

新たな自分に出会ってみたい。そんな一歩を踏み出す勇気を、春の妖精が後押ししてくれます。

新天地に一歩踏み出した人にだけ、天は思いがけないご褒美を与え下さいます。

「胸が震えるほどの暖かな喜び」です。

自転車・バイクを通じてお客様の心に寄り添う瞬間、それがサイクリストマツザワの宝です。

今日もまた、サイクリストマツザワに美しい物語が一つ加わりました。

岡谷市から、諏訪市湖南まで通勤されるK様。

スラリと伸びる綺麗な脚をした、しなやかな身体に、未だ少女の初々しさが残る、控えめな女性が今回の主人公です。

趣味は、マラソン。マラソンの雑誌を読んでいたところ、持久力のトレーニングに、サイクリングを勧める特集記事に出会いました。

そこで思いついたのが、自転車通勤。

思い切りの良いKさん。                                    
 思い立ったら即実行。

パートナーに選んだのは、四年前に亡くなった、
大好きなお祖父様の愛車の電動アシスト付き自転車。

お祖父ちゃんが亡くなって以来、始めて触る自転車。
忘れた事など一回も無いお祖父ちゃん。今はまるで隣に寄り添ってくれているような、お祖父ちゃんの温もりを感じました。

でも、電動アシスト付き自転車初期の、
20年前の自転車は、モーターはもう作動はしません。

余りの重さに、一漕ぎして、はたして職場に定刻に到着出来るか?と一瞬不安になりましたかが、強い力に背中を押されて、ペダルを漕ぎ始めした。

毎日、車で通勤していた風景が、別世界に見えました。頬を撫でる風。昇りゆく朝日。萌黄色の草花。

重いペダルの事など忘れて、流れる景色を全身で楽しんでいました。お祖父ちゃんも、こうやって自転車を漕いで季節を感じていたのかな。と思うと、お祖父ちゃんが恋しくなって、お祖父ちゃんとの思い出が溢れてきて、心の中でお祖父ちゃんと沢山会話をしました。

お祖父ちゃんとの朝のツーリングは、一時間。

かなり疲れましたが、最高に爽快。

帰路もお祖父ちゃんと話ししながら、夕陽に向かって一緒にペダルを踏ぎました。

サイクリングがこんなに面白いとは思いませんでした。これなら毎日出来る。大きな自信が持てました。

何より、何年経っても自分には、心から恋しく思うお祖父ちゃんがいて、無償の愛で見守り続けてくれるお祖父ちゃんがいると再確認出来た事が嬉しかったのです。

その夜、興奮がおさまりませんでした。お祖父ちゃんの形見の自転車。出来る事なら自分が乗り継ぎたいけど、もう限界だよ。新しい自転車思い切って買おうかなぁ。心が揺れ動きました。お祖父ちゃんの顔が浮かびました。お祖父ちゃんは、自分を褒めてくれている様でした。

決めた。自転車買う。それも、最高に気に入ったロードバイクを買おう!お祖父ちゃんが背中を押してくれました。

翌日、お祖父ちゃんの自転車に乗って、プロショップを目指して自宅を出ました。お祖父ちゃんの自転車の乗り納めだと思うと、感慨もひとしおだったけど、何よりお祖父ちゃんが自分の挑戦を一番喜んでくれているのが、分かりまた。

サイクリストマツザワに到着して、お店の前にお祖父ちゃんの自転車を置いて、自動ドアの前に立つと、熟練の職人さんが迎え入れてくれました。
沢山並ぶバイクが輝いていました。

初めてスポーツバイクに乗る事。
それも、ロードバイク。通勤を利用して、快適に鍛えたい。等の要望を、お店の方は静かに聞いて下さり、希望通りの数点のバイクを提案して下いました。その中の一台にくぎ付けになりました。

あっ!これが良い、一目惚れでした。印象的な赤に挑戦的な黒、コントラストが美しくて、ずっと愛情が持てるとピンときました。

職人さんに、ローラーに乗せて頂き、サイズチェックと乗車方法を教えていただき、なんだかドンドン引き込まれて、折角ならトータルコーディネートと、ヘルメットも合わせました。

全てが揃うとなんだか不思議。先程まで、ロードバイクに触った事も無かったのに、ずっと前から乗りこなしているような気分になります。

出発の時。

お祖父ちゃんの自転車と別れの時。

突然、お祖父ちゃんがこの自転車に乗っている姿が目に浮かび、離れがたくて、写真を撮りました。すると店員さんが、自転車の荷台に括りつけてあったゴム紐を外して、私の手に握らせてくれました。ポケットにゴム紐をしまい込みながら、自然と「お祖父ちゃんは、ずっと見守ってくれているから」という言葉が口から出ました。隣で店員さんが深く頷いていました。

自分には愛する人がいて、その人が全身全霊で愛情を注いでくれる。

新しいパートナーに出会って、新しいスタートをきり、お祖父ちゃんの自転車に別れを告げました。

バイクの進み具合も、重量も比べようも無い程軽いけど、「胸が震えるほどの暖かな喜び」で、心は一杯に満たされています。

自転車・バイクは、単なる道具では無く、一台一台、物語があります。サイクリスト マツザワは、その人と人生を共に歩み、思いを共有する大切な友人になりたいと考えています。

朗らかで、優しく、芯の強いK様を、お祖父様はどんなにか誇らしく思われているでしょうか。良いお話を聞かせて下さり、本当に感謝しております。

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